腰の痛み

 

 一口に腰の痛みといっても、「腰部」という言葉には広い範囲が含まれるため、どの部位が痛むかによって意味が異なります。しかし、大和整體ではどういった症状でも「そこに到る経緯」は同じようなものだと考えます。腰痛を抱える人にたいてい共通しているのが「お腹に力が入らないこと」です。そもそも「腰部」というのは体幹下部の背面となりますが、この「体幹下部」を構成するのはその大部分が「腹部(内臓)」です。腰部というのは脊椎を含めても、その背部の薄っぺらな部分でしかありません。腰部は誰しも「体を支えている場所」と認識しています。しかし重い体をその薄っぺらな構造だけで支えられるわけはありません。腰部が体を支えるための機能は、腹部臓器の「正常な圧力」と、背部の腰椎とその周囲筋、双方が協力することで初めて成立します(実際には他にもいろいろな要素が支えています)。これは腹部臓器を「一つの風船」と捉えて貰い、腰椎を「柱」としてこの風船が体の動きに柔軟に対応しつつ体の重みを受け止めているということです。しかし現代人の多くはこの「腹部臓器」が正常に機能していません(主にストレスと食生活の悪化により)。腹部で体を支える機能が低下すれば、その負担は腰椎とそれを支える筋群に集中することになり、体を背部ばかりに頼って支えるという不自然な状態となります。腹部の圧力による助けを得られない状態では、腰部の筋群は容易に疲労してしまうので、ここで痛みが出やすい状況が成立することになります。

 

 ただ「お腹に力が入らない状態」というのは単純に内臓機能の問題としてしまうと、一般的な施術では手を出しにくい対象となってしまうので、ここではそれを「下半身に力が入らない状態」に置き換えてみます。「お腹に力が入らない」と「下半身に力が入らない」は同じ意味です。下半身に力が入らない状態というのは、単純には全身の力が上半身に力が集中しているということです(全身に力が入らないというのでない限り、どこかに力が入らなければ必ず代わりに力の入っている部位がある)。これは大雑把な説明となってしまうのですが、私たちの生活は移動などで足を使うことより、頭や手を使うことが圧倒的に多い生活をしています。体は建物と同じで、腹部を中心とした下半身で力が充実し、その下半身の安定を元に全身のバランスが成立していることが自然なのですが、これが上半身を中心としたバランスになってしまうと、途端にその安定を失います。重心が高くなり不安定になった体は、その不安定さを腰や肩(股関節や肩関節)の動きで補いつつバランスをとることになるので、起きている間は常に一定の緊張を維持していなければなりません。

 

 そもそも体は緊張すると、その力(血液)が上へ集中しやすくなり(足が浮く状態)、弛緩すれば下へと集中しやすくなります(地に足が着く状態)。緊張で足が浮いてしまうという状態では、上半身は緊張によって固くなりますが、下半身では力が入らないことによって防御としての緊張がおこり、やはり固くなってしまいます(力が入らないために固めることでその安定性を高めようとする)。これは一般的に「足が突っ張っている状態」で、ここで膝関節が固まってしまうと腰にとっては致命的な状況となります。ここでいったん「腰部の動き」を整理しておきますが、多くの方が腰痛を訴える「腰仙部」や「腰椎部」というのは本来、腰部の機能としては重要性の低い部位です。そもそも腰の動きというのは屈曲ならそのほとんどが股関節の動きによるもので、伸展なら腰部全体の機能以前に、膝関節の動きにその多くを頼るものです。そもそも体の動きというのはそれがどんな動きでも、その負担が全身に分散されることで無理がない動きとなります。腰の場合、屈曲ならまず膝関節が曲がる(弛む)ことで同時に股関節も同じく動き(連動)、その結果として骨盤全体が自然に屈曲方向へ動くことから脊椎全体もこれに従うことになります。これは膝関節が全体の屈曲の起点になるということで、膝が固まってしまえばそこからできる腰部の屈曲の動きは不自然なものにしかなりません。また伸展の場合では、まず膝関節が屈曲することで骨盤自体を後傾(伸展)させ、より上位の全体が伸展しやすいような状況を作りだします(屈曲も伸展も同じ膝関節の屈曲から始まりますが、前者は前加重の屈曲、後者は後ろ加重の屈曲という違いがあります)。やはりここでも膝関節が固まってしまうと、そこから起こる動きは不自然なものにしかなりません。

 

 屈曲・伸展、どちらの場合でも、起点となる膝関節が正しく動いてくれなければそれを上位の機能で補うしかないのですが、ここでの説明では、緊張によって上半身が固まっていることが前提なので、すでに上半身にその柔軟性はないものと考えます。こうなると「不自然な動き」によって過剰な負担のかかる部位は「腰仙部」や「腰椎部」に集中してしまうのです。簡単な説明に置き換えるなら、上半身は緊張によって、下半身は防御によってそれぞれ固まっている場合、全身を動かす際には両者の境目で構造的に弱い腰部にその負担が集中しやすくなるということです(骨盤と胸郭が柔軟性を失えばその中間で構造的に弱い腰椎部が強制的に動かざるを得なくなる)。

 

 腰痛の説明としては簡単すぎますが、こうした背景からまずは腰部の機能低下が起こり、それが腰痛へと発展していくのだと捉えて貰えばよいと思います。これまでの説明からすれば、痛みの生じている腰部というのは周囲の機能低下の結果による、いわば「被害者」です。これはよく痛みの説明で使う言葉なのですが「どこかに過剰な負担がかかるのは、他のどこかがさぼっているから」です。こうした周囲の機能低下が愁訴として最も顕著に現れやすいのが腰部の機能異常=腰痛なのだと思います。