手部と前腕部

 

 上肢と下肢は基本的に同じように動くようになっているので、先に説明した「足部と下腿部」と同様に、上肢でも「手部と前腕部」は一体となって動くことが自然です。手が「モノを掴む」という時、その力は指先に頼るのではなく、前腕までの筋群が一体となることで、本来の力を発揮することができます。この時に重要となるのが「橈尺骨の動き」で、手指の動きに対して橈骨/尺骨がそれぞれ柔軟に動いてくれることで、手指は前腕の強い筋肉群の力に支えられつつ動くことができます。

 

 これも「足部と下腿部」と同様なのですが、「指立て伏せ」の時のように指先を立てて体を支えると、肘関節までの範囲が一体となって機能するため、手指本来の強い力を発揮することができます。これは指先の軸と前腕の軸がほぼ真っすぐになることから両者が連携しやすくなるためです。しかし私たちは日常生活の中で「手先を器用に動かす」という時は、たいていその動きを手首の柔らかさに頼ってしまうものです。手首の柔らかさを優先させてしまうと、より動きの重い「橈骨・尺骨」はなかなか動くことができず、橈尺骨の機能を充分に活かすことができないまま「手先だけ」で動くことになってしまいます。日常生活の中で「手首を痛めた」という場合、たいていがこの前腕との連繋が失われることを背景として起こっているものです。

 

 手部と前腕の連繋の好例は剣術(剣道)などです。木刀なり竹刀なりを握る時、小指側の指三本を強く握り、他は軽く握る程度に留める。これは指先の力が強い拇指・示指で強く握ってしまうと指先の力に頼りがちになるのですが、より力の弱い小指側の三指で握れば、自然と前腕の力を使って握ろうとするためです。