下肢と腸骨

 

 一般的に「下肢」というと股関節より先の部位を意味します。しかし、全身の関節の中でも特に柔軟な動きを有する股関節に「下肢と体幹を繋ぐ一切の負担」が集中するというのは無理があります(大きな負担は動きの少ない強固な関節な担うべき)。ここで下肢と体幹の境界を股関節ではなく「仙腸関節関節(腸骨を下肢の一部とする)」とすれば、体を支えるのは仙腸関節、下肢を自由に動かすのは股関節と、双方で役割の分担ができることになります。ただしこれには「大腿骨と腸骨」が密接に連繋していることが必須となります。また、この連携を実践するためには「一定の条件」が必要となるのですが、それは「仙椎に一定の可動性を確保できるか」ということです。

 

 一般的に仙骨は仙椎が癒合したものであるため、そこに可動性はないと考えられています。しかし一定の条件が揃えばそこに「しなり」といった程度の可動性を認めることができます。この条件とは、立位時に下肢の力がうまく仙骨の中心(基本は仙椎2番および3番)へと集中することで、これができると立位時に仙椎は伸展方向にしなり、その結果として左右の仙腸関節に僅かながら動きの余裕が生じます(仙腸関節の柔軟性が増す)。この仙腸関節の僅かな動きが、体幹と下肢(腸骨を含む)を繋ぐ仙腸関節本来の機能を発揮させることに繋がります(詳細は「連動」にて説明します)。

 

 この時、骨盤は一般的な意味での「体を支える大きな一つの塊」ではなくなり、体幹を支える仙椎(そのしなりによって支える)と、下肢の延長である腸骨という、二つの機能が混在した柔軟性を有する部位となります(体幹と下肢の力が仙腸関節を介して連携する)。これに対して骨盤を一つの塊と捉え、そこから脊椎が上位へ、下肢が下位へ繋がっていると捉えてしまうと、頑丈な骨盤部と接する「腰仙関節」「股関節」に過度の負担がかかり、故障を起こしやすくなります。これは骨盤に動きがないことで、骨盤内部で分散(処理)できない力が結果的に「腰仙関節」「股関節」へと集中するためです。

 

 骨盤とは、体幹と下肢の間に生じる多大な負荷を、それを受け止めるだけの力を備えた仙椎と腸骨骨が、それぞれ「脊椎」「下肢」と個別に連携するための機能を備えた「しなやかに動く組織」です。ただし、現代人の運動量や食生活ではそうした機能を引き出すことは難しくなっています。運動量については歩く量が少ないことに加えて、舗装路の徒歩では足の細部の機能までを引き出すことができず、仙骨・腸骨を個別に使わざるを得ない状況に至らないこと。また現代人の食生活は小腸・大腸に負担が大きいため、内臓保護のために骨盤全体が固くなることなどです。