立つということ 3

 

 次に「立位」を機能的な問題から考えていきます。先の立位は膝関節の屈曲を基本としたものですが、ここで説明するのは膝関節を伸展させた場合の立位です。まず「立つ」という動作で最も力を使わずに実践する方法を考えれば、それは筋肉の緊張を最少に出来る関節位置となります。これは「解剖学的立位姿位」と同じなのですが、膝関節の伸展(完全伸展)というのはその関節維持の保持のほとんどを靭帯に頼ることになるため、ここで必要な筋肉の緊張は非常に僅かなもので済みます。体は膝関節を伸展すると、股関節は同じく伸展に動くことになります(連動)。股関節は伸展方向に動きが少ないので、僅かな伸展でやはり関節が固定状態となり、その支持は主に靭帯によって行われるため、ここで必要な筋肉の緊張も非常に僅かなものとなります。

 

 この膝関節と股関節の伸展は、結果として左右腸骨を伸展させ、かつ外旋へと誘導します。詳しくは「連動」の項目で説明しますが、これによって仙椎に僅かな伸展の力が加わると腰仙関節の「岬角」が大幅に減少します。その結果として、膝関節・股関節の伸展は腰椎の前彎を大きく抑制し、腰椎そのものの動きを大幅に抑制することになります。この時点で腰椎以下の全身は膝関節の伸展という動き一つで固定され、その関節位置の支持を靭帯に頼ることになります。加えて腰椎の前彎の抑制は、結果として胸椎の後彎、頸椎の前彎の抑制にも繋がります。胸椎の後彎(中でも下部胸椎の後彎)抑制は、結果的に胸椎から胸郭全体の動きを固定し、かつ肩甲帯の位置をも決めてしまうので、ここで頸部・頭部を除く上半身もが固定されることになります。さらに頸椎の前彎抑制は頸椎のみならず、環椎後頭関節の動きを抑制するため、これで結果的に全身が「膝を伸ばす」という一つの動作から強制的のその動きを固定され、一定の姿勢をとらざるを得なくなります。そしてこの姿勢はその関節位置のほとんどを靭帯の張力によって支えられ、ここで必要となる筋肉の緊張は”理屈上は”僅かなものとなります。

 

 ただ、実際にこれを行ってみると膝を伸ばした時点で膝関節の遊びがなくなることから膝関節一帯に強い筋肉の緊張が生じ、これから起こる一連の動き全てにも同じく強い筋肉の緊張が生じます。なぜこういうことが起こるかといえば、それはこの姿勢が伸展相側(吸気相側)で固定された姿勢だからです。私たちの体は必ずしも正しく機能しているわけではないので、そこにさまざまな緊張や歪みが生じています。そうしたものを抱えながら生活するために適した姿勢は、各関節の遊びを増大させた軽度屈曲位であり、それを関節の遊びが消失する伸展方向に固定したのでは全ての機能を窮屈に感じるため、そこに強い緊張が伴うことになります。ちなみに先に説明した膝関節を深く曲げる姿勢は「屈曲相側(呼気相側)」にある姿位となります。体の機能が理想的に整うと、膝関節をあまり曲げずとも自然な立位を作ることができるのですが、その屈曲が僅かであればあるほど、その姿勢は上述の「伸展相側での固定」の性質を強く兼ね備えることになります。つまり両者の性質がほぼ一致している一定範囲内にある姿勢が「正しい立位」となるわけです。