自律神経の話

 

 施術の対象を「筋肉の過剰な緊張」に限定し、多くの施術を行ってもそれだけでは一定以上の効果に繋がらないことが多くの方が経験されていると思います。これが「原因が明確な(ホ)」であった場合は、単に技術的な問題ですが(原因となる機能不全を改善)、そうでない場合は、交感神経の働きそのものを抑制するため、その背景にある理由ごとに一定の手順を踏まえて施術を行う必要があります。ただ、そのためにはここで大和整體なりの交感神経・副交感神経の関係について触れておく必要があります。

 

 一般的には交感神経は活動用の神経活動で、昼間に活発に働くもの。副交感神経は回復(休息)用の神経活動で、主に夜眠る時に活発に働くもの、とされています。これはいわばシーソーのような関係にあります。これに対して、大和整體の考えでは生命活動の基本は副交感神経、対する交感神経はこれを補助するものと捉えます。単純な例ではサバンナなどでクラス大型のネコ科動物などが分かりやすいと思います。こうした動物は捕食行動と生殖行動では機敏な動きを示しますが、それ以外では寝ている・ゆっくり動くと、決して機敏な動きを示すことはありません。まずあらゆる動物は「内臓」によって生きているわけで、この活動を司るのが副交感神経です。対して交感神経の活発な活動は、行動と引き換えにこの生命活動を損なってしまうわけで、交感神経が活発に機能している間、生命活動を司る内臓は充分な血液循環を得られず、ダメージを受けてしまうことになります。それを体現しているのがネコ科の動物の生活行動で、捕食行動と生殖行動以外では無駄に交感神経を活性化させることなく、出来る限り副交感神経優位の状態を維持したまま生活を過ごします。

 

 そうした動物にとって、交感神経の働きというのは「生命活動を損なってでも動かなければいけない状況」においてのみ活性化するものであり、それが捕食行動と生殖行動に相当します。これはネコ科以外でも、一定の体の大きさを有する動物であれば(体の大きさは全身への酸素供給に関連する)、捕食行動と生殖行動以外に無駄に交感神経を活発にさせるような動きは行いません(ただし子供は別です)。体の大きな哺乳類の中で、人間だけが常に交感神経を活性化させた状態で動き続けるのです。これは同時に「活動・行動と引き換えに生命活動を損なう」ことになるので、その結果として多くの身体機能が低下しやすく、それを補って動くためにさらなる交感神経の活性化を必要とする、という悪循環に陥ります。人と同じ大きさの動物に「一日中動き続ける動物」がいないように、私たちの体が起きている間中動き続けてその機能を正しく保てるようにはできていません(現代人の生活習慣そのものに愁訴・疾病の要因がある)。

 

 こうした要因から「昼間は交感神経」「夜は副交感神経」という単純な考えは健康な体には当てはまらず、昼まであってもいかに交感神経の無駄な活性化を抑制し、副交感神経の働きを阻害させないか(一定以上の活動状態をを維持させるか)が重要だと考えます。実際に武術など、長年体を正しく使う訓練を積んだ人では、日中の活動でも出来る限り交感神経の働きを抑え、常に副交感神経を活性化させたままの状態で動ける人はいます。副交感神経優位という状態を「動けない状態」と捉えている人が多いのですが、そもそも交感神経が活性化してる状態で「体を正しく動かす」ことはできません。これは末梢の微細な神経を活性化させるための「毛細血管の拡張」が副交感神経優位の状態でしか起こりえず、交感神経優位の状態では限られた神経しか機能しないためです(体が交感神経優位の状態でのみ理想的に動かすことが可能となる)。副交感神経優位にできないのはあくまで「激しい動き」であり、緩やかに動く分には交感神経の働きは僅かで済むのです。