胸郭の構造

 

 胸郭は骨盤部ほどではないにせよ、あまり柔軟性を持たない部位として扱われがちです。しかし大和整體では骨盤部同様、それ以上に柔軟な動きを有するものと考えます。胸郭が柔軟に動くために必要なのは、脊椎そのものの柔軟性と、上肢との密接な連繋です。ただし脊椎そのものの柔軟性は、先に骨盤部で取り上げた仙椎と脊椎の連繋が前提となります。

 

 一般的に脊椎は本来、腰椎・胸椎・頸椎が均一にしなるとは考えられていません。伸展には腰椎と頸椎が、屈曲には胸椎が構造的と優位と考えられていますし、限局すれば伸展には腰仙部が、屈曲には下部胸椎が優位となりやすいものです。しかし一定の条件さえ揃えば、脊椎は仙椎・腰椎・胸椎・頸椎が密接に連繋して極めて均一に動くことが可能になります。しかし仙椎と脊椎(腰椎)の連繋は、岬角を減少させ、その結果として脊椎全体のカーブを大きく減少させます。脊椎は前彎・後彎のカーブが大きいほどそれぞれ伸展優位・屈曲優位という役割の分担が明確化しますが、一定までこれを均一に減少させることができれば、脊椎全体が均一に屈曲・伸展に動きやすくなります。これはバレエなどに代表される姿勢から生み出される動きですが、決して特殊な動きではありません。

 

 この時に重要となるのが「下部胸椎の伸展機能の増大」です。体は緊張が生じると横隔膜の緊張などから胸郭が締まり、その結果として胸椎全体が屈曲優位になります。この全体の動きを決めるのが下部胸椎で、下部胸椎が屈曲優位になると胸椎全体が屈曲優位となり、その結果として胸郭も締まりやすくなります。胸郭を柔軟に動かすための必須条件は下部胸椎の柔軟な伸展機能であり、それに伴って胸郭は本来の自然な状態にまで開くことができます。逆をいえばいくら岬角が増大して脊椎全体が均一に動きやすくなったとしても、下部胸椎の自由度が周囲に比べて僅かでも低下していれば、胸郭は緊張によって締まりやすくなり、柔軟には動かないということです。

 

 加えて上肢との連繋ですが、これは先の下部胸椎の動きから得られる胸郭そのものの柔軟性と、先の手部と前彎の連繋が伴った上肢の双方が必須の条件です。その上で問題となりやすいのが肩甲骨と鎖骨で、この二つは胸郭の動きが固い人では、肋骨の動きに影響を受けやすく、純粋の上肢の動きに連繋するようにはなっていません。胸郭と上肢の連繋には、この二つの骨が胸郭から完全に独立し、上肢の動きに連繋することが必要となります。この動き特に障害となりやすいのが胸肋関節の柔軟性で、特に肩甲骨の内側に相当する胸肋関節が脊椎(胸椎)の柔軟性同様、理想的に動けば肩甲骨の自由度も著しく増します。最終的には上肢の動きに対して胸郭を構成する胸椎と十二本の肋骨が全て均一に反応することが理想で、これは手指の僅かな動きであっても同じことです。ただしこれには胸郭が守っている臓器全ての柔軟性も重要となります。