頭部と頸部の構造

 

 大和整體の身体観では脊椎は仙椎から頸椎まで均一に動くとしましたが、実際には頸部は、腸骨が下肢の一部であり、健康かつが上肢の一部であるのと同様に、頭部の一部と考えます。そもそも大和整體では体の末端を「四肢」ではなく、頭部を含めた「五肢」と考えるのです。一般的に頭部は体の中で特に重要な部位であり、その重要なものを体幹に乗せていると考えられています。しかし大和整體にとって頭部は手足と同じく便利な「道具」であり、決して守るべき特別な部位ではありません。

 

 これは野生動物の頭部を想像して貰えばいいのですが、動物にとって頭部は食べる、咬む、引きちぎる、または頭突きなどの道具であり、武器でもあります。頭部を守って生活する動物などいません。道具である以上はそれ相応の動きの柔軟性と強い力がなければ意味がありません。足部が下腿と連繋することで、手部が前彎と連繋することで強い力を得るように、頭部は頸部と連繋することで本来の強い力を発揮します。また頸椎は連繋している脊椎の力を借りることで更に強い力を発揮することができます(動物が獲物を食いちぎる時には顎の力と後肢の力を使って行う)。よって頭部と頸部は基本的に常に協力して同じ動きを行うものとします。しかしこれも、私達の意識が頭部だけを特別と扱い、周囲との連繋が弱まりやすいため、これまで説明してきた全身の連繋を前提としてはじめて可能となる動きです(頭部を道具として使えば連繋しやすいが私達の生活習慣にはそうした動きがないため)。

 

 頭部が頸部(脊椎)と連繋するということは、頭部の一番の動きである「噛む」という行為は一般的な下顎を動かして行う咀嚼とは異なり、下顎は前面の頸部から腹部までの筋肉を総動員して行う動きであり、上顎も頭部から背面の頸部、背部までの筋肉を総動員して行う動きであるということです。その時の咬合力によって連繋の範囲は変動しますが、最小単位の頭部と頸椎の連繋は変わりません。少々大げさな表現に思われるかもしれませんが、これだけの力が生じることが、頭部を構成する頭蓋の各骨にどういう影響を及ぼすかを考えて貰えば、その重要度も理解して貰えると思います。

 

 頭部は多くの骨から構成されていますが、一般的な咀嚼に直接関わる骨以外には、物理的に動く要因は殆どありません(脳脊髄の循環による頭蓋の動きも咀嚼などの動きに比べれば僅かなものでしかありません)。その結果として頭蓋の骨は殆ど動かないものとされ、いったん大きな歪みが生じると、自力では治せないものと考えられがちです。しかし頭部は頸椎(脊椎)と密接に連繋することにより、体の動きに密接に協力して働き、そこで物理的な動き、それに伴う物理的な活性化を得ることができます。頭部は他の部位に比べて確かに重要な機能を多く持っていますが、足部も頭部も同じ身体構造の一部として等価に扱うのが大和整體の考え方です。