体の縦の動き 2

 

 体というのは縦の動きを行えば行っただけ正しく整い、それ以外の動きを行えば行っただけ崩れやすいものです。分かりやすい例としては「目の動き」で、目を上下(天地)に何度も動かしていると体全体が縦の動きに整ってくるため、体はしっかりとしてきます。しかしこれを横に動かしてみると途端に体の安定は崩れ、力も弱くなってしまいます(重たいものを持つなど発揮できる力の強さを比べてみると分かります)。これはこれまで私が資料を「横書き」ではなく「縦書き」に拘ってきた理由でもあるのですが、文章を読む時は縦書きの方が体の機能が安定し、集中力も高まりやすいものです。

 

 たいていの人が愁訴に到る過程では、何らかの理由から体の機能が充分に発揮できない状態にあるものです。その理由として、現代人のこの「縦の動き」に関する弱さは重要な意味を持ちます。そもそも、縦の動きの重要性というのは「体の左右半身を均等に使う」ことにあります。「徒歩」の場合なら、「右足を踏み出す動き」と「左足を踏み出す動き」が交互に行われるわけですが、左右半身で同じ動作が反復されるということは、まず「体の左右の機能を均一に整えることができること(単純動作なので修正が行いやすい)」、次に「体の左右の機能的な関わりを密接にすること」に繋がります。

 

 体の働きを調整する「自律神経」は全身を一括管理しているのではなく、体の機能を幾つかに分割し、それを統合することで全身を管理しています。その中で「右半身と左半身の区分」は顕著であり、誰しも右半身と左半身ではその感覚や動きに顕著な違いが生じやすいものです。これを修正する機会が「縦の動き」であり、徒歩など左右半身に同じ動きを反復させるとで、左右半身の機能の差が減少し、統合しやすくなります(左右半身の機能が似かよれば似かよるだけ左右の統合も起こりやすくなる)。体の機能に問題が生じる時というのは、たいてい左右半身に起こる機能的な偏りが発端になっているものです。これを縦の動きによって偏りを減らし、かつ左右の機能をうまく統合させることができれば、それだけで体の機能は高まっていくものです。

 

 また、体の縦の動きというのは、体の正中線を境に左右を均等に使うということであり、それは正中線(体の中心軸)を正しい状態に保つという意味も持ちます。体の中心軸に左右へのズレや傾き、捻れなどがあったとして、この状態では体は正しく動くことができず、不自然な動作を強いられることになります。こうした状態が持続するだけで体は不調に陥りやすいものです。しかし縦の動きを繰り返し行うことは、それによって体の中心軸を正しい位置へと戻すことに繋がるので、結果として中心軸を「矯正」することに繋がります。体の中心軸が真ん中で強く安定している人というのは、心身ともに強くなりやすいもので、これは「昔の人は体が丈夫だった」ということの主な理由でもあると思います。

 

 これに対して「捻る」動きというのは、非常に複雑な作業です。「腰を捻る」という動作を「腰の曲げ伸ばし」と同じくらいに単純に考えている人は多いと思いますが、「曲げ伸ばし」は非常に単純、「捻る」は非常に複雑なものとなります。先にも説明したように、回旋というのが単純に「回旋筋」の働きに頼るものではなく、屈曲・伸展に働く筋群の微調整を背景に起こるものであるとした場合、そこで脳が全身の筋肉に対して行う命令、その微調整による複雑さは屈曲・伸展の比ではありません。また徒歩などの縦の動きでは、それが「右足を踏み出す(右半身主体の動き)」「左足を踏み出す(左半身主体の動き)」と、左右半身のどちらかに動きが集中するため、残った側は半ば「やすんでいる」ようなものです(そもそも徒歩に関する動きは反射的な機能に頼る部分が多いので脳の負担は少ない)。しかし「捻る」動きではそうした左右の区分が明確でないため、脳には常に左右半身を管理するための膨大な負荷がかかります(その上反射的な機能に頼ることもできない)。捻るという動作は、脳や体への負担が多きわりに、得るものの少ない「無駄が多い」動作であるといえます。

 

 残る「側屈」については、これは体に「純粋な側屈」という機能がほとんど存在しないことから、実質的には「捻る」と同じ動きであると考えます。脊椎には「連動運動」という動きの説明があります。これは脊椎の動きが「回旋する時には同時に側屈を伴う」「側屈する時には同時に回旋を伴う」というもので、脊椎に「純粋な回旋」や「純粋な側屈」といった動きはないことの好例です。実際、体のどの部位であっても、側屈と思って行っている動作には、必ずどこかに「捻り」が加わります。例えば肩関節の外転を「肩関節以外は一切動かさない」としてしまえばほとんど上がりませんし、手首の側屈にしても、橈尺骨の捻りを使わずに行える側屈などごく僅かでしかありません。これを要約すれば、私たちの体は純粋な「縦の動き」と、それ以外の「捻りの動き」で構成されているようなものです(もちろん縦の動きにも捻りの要素はありますが、それは微調整といって差し支えない程度の僅かな動きです)。

 

 体全体の機能を正常化するには、まず縦の動きを優先的に回復させることが重要で、その結果として他の諸機能の回復も早まることになります(側屈や回旋の動きに関わらずあらゆる機能が高まりやすくなる)。ただし、縦の動きの機能を回復させたら、それを「歩く」などでしっかりと使って鍛えることは必須です(鍛えるなかで正しい中心軸が作られていく)。大和整體では「体の縦の動きが強まる」ということと、「体が強い(全身の諸機能が活性化している)ということは同じ意味であると考えるのです。